記憶術と復元~思い出すって何だろう?~

メモリーアスリートのつぶやき

メモリーアスリートの平田です。

他のマガジンライターと違って、現役バリバリ!という訳ではないので、少し俯瞰した立場でメモリースポーツや記憶術の記事を書きがちです。

今日もちょっと記憶術を俯瞰で考えてみたいと思います。
「記憶術って何をやっているんだろう?」「そもそも思い出すって何だろう?」「記憶術ってなんで思い出せるんだろう?」という話をします。

記憶術って何だろう?

記憶は「覚える」というインプットの作業と、「思い出す」というアウトプットの作業に分かれます。でも、「思い出す」ことができない記憶は「覚えた」ことにはなりません。これらの作業は2つで1個、ニコイチです。

なので、メモリースポーツでも勉強でも何でも、何か記憶したいものがあった場合、「思い出せるように覚える」ということをしなくてはいけません。適当にインプットして思い出せるのであれば、何秒か眺めて視覚からインプットをすれば良いということになってしまいますよね。

記憶するにあたって大事なことは「思い出せるようなインプットの工夫をする」ということです。
そして、その工夫や方法のことを記憶術と呼んでいます。
メモリースポーツでよく使われる場所法やストーリー法、数字の変換術などはもちろんこの記憶術に当たりますが、歴史の年号を覚える語呂合わせなどの工夫も記憶術に含まれます。

英単語を繰り返し書いて覚えるといった作業は、思い出すための工夫が小さいので記憶術と呼べるかは難しいところですね。

とにかく、記憶術は思い出すために行うインプットの工夫だということです。

思い出すって何だろう?

では我々は記憶術を使ってどのようにモノを思い出しているのでしょうか?

一言で言えば、「未知を既知と結びつけることで、既知から未知を導き出す」ということをしています。
いくらインプットした知識とは言え、新しく覚えたものを無から復元するのは容易ではありません。脳のワーキングメモリと呼ばれる能力によって、数個の単語や数字は復元できるかもしれませんが、それを超えるものを何でも思い出すことは不可能でしょう。

そこで、既に自分の中にある情報、知っている物から思い出すという作戦が有効です。

無の状態からでも自分が思い出せる情報とは何でしょう?
それは長期記憶になっているものや、無意識レベルで行える習慣などです。これらをフックにしてインプットした情報を復元することができます。

何か単語を思い出すときに、思い出すきっかけが無く、頭の中で五十音をたどって「あ」から順に頭文字になっていなかったか考えたことはありませんか?

これは無から思い出すよりも、「全ての言葉は五十音のいずれかから始まる」という特性を使って、既に自分の中にある「五十音」という情報を基に思い出しているということになります。

テストでは復元するためのフックが何も無いという状況はめったにありません。例えば、「794年平安京に遷都した」という未知の情報に対して、語呂合わせで「鳴くよウグイス平安京」というキーワードを覚えたとします。テストでは「794年に何が起きた?」という問われ方をするので、794をフックにして「ナクヨだから、鳴くよウグイス平安京で平安京の遷都だ」と思い出すわけです。

いきなり「何年に何が起きた?」と問われることはほとんど無いでしょう。もしそういう問われ方をしたり、論述で無からアウトプットしないといけない場合はかなり大変です。極論、0年から順にたどっていって、しっくりくる語呂合わせの所で気付かなければなりません。

そこでより強力で効果的な記憶術を使っていくのです。自分の既知と無理やり結び付けて、思い出しやすくするという戦法を取ります。

例えばストーリー法という記憶術は覚えたい単語同士を物語で繋げることで単語の羅列を覚えていきます。具体的に「歯ブラシ、玉ねぎ、メモ帳、ごみ袋」という4つの単語を覚えるとしましょう。実用的な場を考えるのであれば、お買い物リストの記憶だと捉えてください。

この場合、「歯ブラシで玉ねぎをゴシゴシ磨いたら、中からメモ帳が出てきて、すぐに破れ散ったのでごみ袋に拾い集めた」という物語を作れます。
こうすることで、「歯ブラシ→玉ねぎ→メモ帳→ゴミ袋」と単語が繋がっていき、芋づる式に思い出すことができます。

でも本当に思い出すことができるでしょうか?

確かに歯ブラシというキーワードが与えられたら、
「歯ブラシで何かを磨いたな、そうだ玉ねぎだ。玉ねぎからメモ帳が出てきて、ごみ袋に集めたんだった!」
と全ての単語を順に思い出すことができます。
しかし、無から「歯ブラシ」という最初の単語を思い出すのは相当大変ではないでしょうか?

インプットしてからしばらく時間が経っていたら、「そもそも最初の単語何だっけ?」となってしまいます。
何も手掛かりが無ければ、先述のように五十音を順に辿っていき、「あ、違う。い、違う。う、違う…、は、歯ブラシだったわ!」と捻りだせる奇跡を待つしかありません。

思い出すためにできる工夫

では、どういう工夫を施せば、歯ブラシという最初のフックをいつでも思い出すことができるでしょう?
「絶対に1単語目はこれを覚える」といった目印を決めるのはどうでしょうか。

例えば「バッグ」を絶対に1単語目にしようというルールを定めて、歯ブラシをバッグに紐づけます。バッグの中から歯ブラシが出てきた、というストーリーの結び付きができますね。そうすると、思い出す時に、自分の中で「思い出したい1つ目の単語はバッグと繋がっている」という既知の情報があるので、
「バッグから歯ブラシが出てきたんだった。歯ブラシは玉ねぎを磨いていて…」
と無事に思い出すことができます。

この「最初の単語はバッグから始める」というルールを作ることで、既知情報からインプットしたものを思い出すことができました。こう思うと記憶術って実はガチガチに固まった体系ではなく、自由度の高いものだと感じませんか?

自分が既知であるものを使いこなせれば良いわけですし、人によって工夫の仕方は異なって当然です。ただし、だいたい共通してこういうものが既知情報としてオススメだよというものはあります。それがメジャーな記憶術になっているという訳です。

さて、先ほどのバッグの例をもう少し考えていきましょう。このやり方、2つほど欠点があります。
1つ目は「ストーリーが長くなるとその分思い出すのも辛くなってくる」ということ、
2つ目は「色んな単語のセットを覚えたい時、全て1単語目がバッグから出てくるので混乱してしまう」ということです。

まず1つ目の悩みを解決する方法を考えてみます。
ストーリーが長くて思い出しにくいなら、単語のセットを増やせば良いのです。先ほどは「歯ブラシ、玉ねぎ、メモ帳、ごみ袋」という4つで1セットでした。これを「歯ブラシ、玉ねぎ」と「メモ帳、ごみ袋」に分けてしまえば、それぞれのストーリーは短く済むので、思い出すのも簡単になります。

しかし、こうすると、無から思い出す必要のある単語が「歯ブラシ」と「メモ帳」の2つに増えてしまいました。両方バッグに突っ込まないと、既知から思い出せませんね。

そうして2つ目の悩みに突入します。バッグに何でもかんでも突っ込んでしまうと、結局思い出すのに苦労してしまいます。であれば、バッグではない何か2つ目の目印を作ってしまいましょう。自分が分かれば「缶」でも「猫」でも「スイカ」でも何でも良いです。ここでポイントになるのが、この目印は自分の既知情報であるということです。これらの単語もランダムで選んでしまったら、この単語ですら何かの情報と紐づけなければならず、無限ループになってしまうからです。

なので、この目印たちにもルールを付与する必要があります。例えば「1つ目の目印はバッグだったから、2つ目の目印はビから始まるビー玉にして、3つ目はブから始まるブーメランにしよう」などです。こうすることで、目印たちは既知情報に近づいていきます。何度も使っていれば長期記憶になり、無意識レベルで目印の単語群を思い出すことができるでしょう。

実はこの工夫が「ペグ法」と呼ばれる記憶術です。
何か目印(=ペグ)となる単語群を決めて、新しく覚えたい単語をそのペグと結びつけて覚えるという技です。このペグは既知情報で無ければいけません。前述の通り、ペグも無作為な単語だったら「ペグを覚えるためのペグ」が必要になってしまい、無限ループになってしまうからです。

先ほどまでの「バ行単語をペグにしよう」というのはあまり良い方法ではありませんね。「バッグ」「ビー玉」「ブーメラン」という単語は、確かにバ行から始まるというルールがあるものの、バ行から始まる単語なんて山ほどあるわけで、これらを確実に既知情報にするのに時間がかかってしまいます。さらに、ボの次に6つ目のペグを追加するのも新たなルールを追加する必要がありそうです。

ではどんなルールがペグに適しているでしょうか?
自分の中でより既知に近いものが良いと言えるでしょう。一般的には、体の部位や都道府県などが無からすぐに思い出せるものだと思います。頭や手などは覚えるまでも無いでしょうし、都道府県もだいたいは日本地図を頭に浮かべながら順番にイメージが湧くでしょう。
これらに加えて、自分だけが持っている既知情報(例えばプロ野球選手の背番号順やアイドルグループのメンバー、通勤通学で使う路線の駅名など)をペグにすることも可能です。

このような工夫を施し、ただのストーリー法よりも効率的に復元しやすい記憶術を手に入れることができました。

さらに工夫できること

実は、これよりさらに効率的に既知情報をまとめることができるのです。それが「場所の情報」であり、これを使ったのが場所法という記憶術です。

人間の脳は場所に関して強く記憶に残りやすい、その場所の中に何があったかを思い出しやすいという特性があります。この特性を生かして、場所を既知情報にしてしまおうという考え方です。自分の部屋の中の家具配置や、最寄り駅までの道にある特徴的な建物などを順番に目印にしてしまえば、それらをフックとして未知の情報をインプットすることができます。先ほどのペグと同じ要領です。

ペグ法と違うのは、「より既知情報に近い」という点です。正直覚えられる容量はペグと変わりません。1つのペグに2つの単語をストーリーにして結び付けるのと、1つの場所に2つの単語を結び付けるのでは、覚えられる量は同じですね。しかし、都道府県を順番に思い出すより、自分の部屋の中を思い出す方が遥かに速くて正確なのです。脳の既知に近いということです。

メモリースポーツでは速さを求めていくため、ペグ法はほぼ使われず、基本的に場所法が使われます。
また、目印を作りやすいという点でも場所法は優れているため、勉強でも使いやすいのは場所法でしょう。

つまり、場所法は
「脳がすぐに思い出しやすい既知情報である場所をフックにすることで、新たに覚えたいものを速く正確に結びつけることができ、復元しやすいインプットができる」
という点で優れた記憶術だと言えるのです。
「覚えやすい」ではなく「思い出しやすい」から良い記憶術なのです。

今は「場所」が脳の特性として既知に近いので場所法が普及していますが、場所よりもさらに本能に刻み込まれた既知情報があればそれをフックにした記憶術が広まるでしょう。

長くなってきたので、今回はここらへんで終わりにします。

記憶術の本質は思い出しやすいということ、そして思い出すという行為は「既知から未知を導き出す」ということが伝わったでしょうか。現在主流になっている記憶術は、これらの考え方が基になっています。

他にも「顔と名前を覚える時は、フックが必ず顔になるから場所法などとは異なる方法で復元しやすい工夫をしなくてはいけない」「メモリースポーツで記憶スピードが速いのが写真のイメージなのは、復元箇所が一部で良いから」「イメージ、数字、トランプ記憶はハッシュ化、名前と単語は暗号化」など、記憶と復元について色々な観点で考察できるのですが、それはまた機会があればにしましょう。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!