なぜ記憶術は役に立たないのか?~それでもメモリースポーツを勧める理由~

メモリーアスリートのつぶやき

こんにちは、メモリーアスリートの平田です。

メモリーアスリートとして本を出版したり、メディアに出演したり、メモリースポーツについて発信をするとよくこうやって言われます。

「メモリースポーツって勉強の役には立たないよね」「トランプを暗記しても、日常生活には使えないじゃん」「記憶術の本を読んだけど、勉強には使えなかった。大会に出たいわけじゃないんだよ」

本当に記憶術は役に立たないのでしょうか?メモリースポーツをやってもそれはただのマニアックな趣味で終わるのでしょうか?

僕は違うと思います。メモリースポーツで得た知見を使って、勉強や日常で記憶術を使えているので確証を持って違うと言えます。ただし、今までの発信ではこのような誤解を生んでしまうのは無理もないと思っていますし、ここは実力不足だったと反省しています。

今回は本気でこの問題に回答してみたいと思います。

記憶術を勉強に使うために必要な2つの力

結論から言います。メモリースポーツだけでは勉強に応用しにくいのは事実ですが、勉強で記憶術を使うためにはメモリースポーツの知見が必要かつ最短経路であると考えます。

詳しく説明していきましょう。

そもそも、記憶術を勉強(ここでは勉強と称していますが、任意の試験や仕事内容、日常生活でのあらゆる応用を指します)に使うためには、2つの力が必要です。それは「計画力」と「実行力」です。

  • 計画力は、自分が覚えたい対象について、記憶術で覚えられる形に落とし込む力。
  • 実行力は、覚えられる形になったものについて、実際に記憶術で覚えていく力。

基本的に記憶術の学習では②の実行力を付ける方法しか学びません。

そして、この実行力を鍛えるための練習として日本語の単語の羅列を覚えたり、トランプを覚えたりするのですが、これだけを見てしまうと「勉強で使わない練習をしているじゃないか」と無駄に見えてしまいます。

メモリースポーツは何を競っているのか?

メモリースポーツでは既に覚えやすい形に加工された数字の羅列や写真の順番など、基本的にピュアな「記憶術運用能力」を競っています。つまり、②の実行力がどれだけ高いかを競うスポーツです。

メモリースポーツの大会の様子です。極限まで実行力を高めた選手たち。

だから、メモリースポーツだけをやっていても、①の計画力が身に着かず、勉強に役立たないというのはある意味事実です。

ただし、メモリースポーツをやっていて計画力が必要な部分もありますし、鍛えられる部分は多くあります。何しろ、実行力を鍛えるためにはメモリースポーツが最適な手段だと思います(詳しくは後述します)。

算数の文章題と構造は同じ

計画力と実行力について、もう少し詳しく見ていきましょう。

「覚えたい対象があって、それを自分で覚えられる形にブレイクダウンして、実際に覚えていく」というのが記憶術を勉強に使うプロセスでした。

このプロセスは算数や数学の文章題を解くプロセスと同じ構造をしています。

例えば次の文章題を解くプロセスを考えてみましょう。

「メモ太は3本セットの鉛筆を5セット買った。その後スポ子に7本渡した。残りは何本でしょう?」

この文章題を解く時、まず「3×5をして、そこから7引くから3×5-7だな」と式を立て、その後計算をして8本という答えを得ます。

この立式の部分が「計画力」で、実際に計算をする部分が「実行力」になります。

実際に与えられた問題に対して、自分で計算可能な式に落とし込み、あとはミスなく計算を実行していくことで文章題を解くことができました。式を立てるだけでは答えにたどりつかないし、計算だけできても適当に数字を四則演算するだけでは答えが導かれません。どちらが欠けてもいけないですね。

このプロセスは勉強に記憶術を使うプロセスと同じです。

例えば、記憶術を使って英単語帳を覚えるとします。戦略も無しにいきなり記憶術を使うことはできませんし、戦略を立てて覚えやすいリスト化したところで記憶術を使えなければ覚えることはできません。

まず英単語帳を見て、「この50単語を覚えたいな。単語の羅列は場所法で覚えられる。場所法を使うためにまず50単語をリスト化しよう。ただ、英単語のままイメージを場所に置くのは難しいから、タグ付け法を使って、それぞれの英単語を語呂合わせでイメージ化しよう」と方針を立てます。そしてこの計画通りに単語をリスト化して、実際にタグ付け法と場所法を使って覚えていくのです。

メモリースポーツでは①の要素はあまり必要とされません。計画するのに時間がかかるし、ピュアな記憶力だけを競うスポーツとしては②のみを競った方が公平で競いやすいからです。必要とはされませんが、サプライズ種目など一部の種目では計画力も必要だし、新しい種目ができれば自分で使える記憶術を編み出して考えるので、鍛えられていきます。

サプライズ種目は初見の情報を1分間で記憶する種目です

そろばんの選手とメモリーアスリートもすごく性質が似ていると思っています。

ものすごく高い計算力をもっているそろばんの選手は、計算という実行力をピュアに競っています。ではそろばんができれば算数や数学ができるようになるかというと、式を立てる「計画力」が求められるので一概にはそうとは限りません。ただし、計算に圧倒的なアドバンテージがある以上、得意になる可能性は高いですし、計算力を鍛える上で計画力も向上する部分はあるでしょう。

メモリーアスリートも一緒です。実行力が高い分、計画を立てる練習や試行回数を増やせますし、メモリースポーツをやっていくうちに自然と計画力が鍛えられる場面もあります。

どうやって計画力と実行力を身に着けていくか

算数の文章題を解くプロセスと、記憶術を勉強に使うプロセスが同じ構造をしていることを説明しました。ここまでで、メモリースポーツの知見だけでは記憶術を勉強に生かすことが難しい理由と、同時にある程度の記憶術運用能力が無いと実践では使えない理由が分かったかと思います。

では、次にどのようにして計画力と実行力の2つを身に着ければ良いのか考えてみましょう。

ここでまた算数の例で考えてみます。

構造が似ているということは、算数を学んだのと同じ順番で記憶術も学んでいけば良いのです。

記憶術を勉強に使いたい人が、メモリーアスリートを目指したいわけではないことは知っています。算数を勉強する人が、そろばんの選手を目指しているわけではないことも知っています。

ただ、算数を最初に勉強したとき、まずは計算練習から始めたと思います。四則演算を覚えて、九九を暗唱し、繰り返し計算ドリルや百ます計算で計算力を鍛えたはずです。

計算が先で、文章題の練習をするのは後です。

実行力が先、計画力は後。

記憶も同じです。まずできなければ意味がありません。覚えられる形に加工されたものを記憶できるようになれば、あらゆる対象物に対して覚えられる形に加工することができるようになっていきます。自分が何を覚えられるか分からないと、計画しようがありません。

ということで、九九の暗唱をしたように、まずは記憶術を実行する力を身に着けましょう。

記憶術の実行力の鍛え方

基本的に実行力を鍛えるのはつまらないです。なぜなら、単純作業の繰り返しになるからです。

計算ドリルはたいていつまらないです。それでも何とかできたのは、百ます計算で時間を計ってスコア化したり、先生が工夫して九九をゲーム感覚で一の段から覚えさせてくれたり、友達と競い合ったりしたからだと思います。

記憶術を鍛えていくのも、単純作業の繰り返しだからつまらないです。しかも、四則演算と違って、何から学べば良いのか、どの程度できるようになったら次のステップに進めば良いのかも分かりません。指導者も少なすぎます。

この課題を解決してくれるのがメモリースポーツだと思っています。

メモリースポーツは純粋な記憶術の実行力を鍛えるスポーツだと言いました。

その特性があるからこそ、先人たちが必要なスキルを分類してくれて、学ぶためのステップも体系化されてきています。覚えた数がスコア化され、世界中の人と競い合うことでモチベーションも保たれます。対戦はシンプルに楽しいし、過去の自分の記録を超えていくというのは成長が感じられてやる気になります。百ます計算のタイムが縮んで頑張れるのと同じですね。

メモリースポーツこそが記憶術の実行力を鍛えるための最短経路だと思うのはこれが理由です。メモリーアスリートが、「記憶術を勉強に使いたいんです」という人にとりあえずメモリースポーツを勧めているのはこれが理由なのです。

だけど、この部分だけが切り取られるから、「いやトランプ覚えても意味ないじゃん」という誤解が生まれるのです。誰も悪くないです。強いて言えばきちんと丁寧にこの背景を説明できていなかった僕たちが悪いです。ごめんなさい。

ということで、まずはメモリースポーツをやって、実行力を鍛えてください。「勉強に使いたいのに遠回りじゃん!」というのは分かります、分かるんですが、1回だけその気持ちを忘れて1か月メモリースポーツをやってください。

5分間で20単語の日本語を覚えられない人が、どれだけテクニックを知っていて、勉強に応用しようと思っても、大量の英単語を覚えられるわけが無いんです。それだったら普通に英単語帳を読み進めた方が効率が良いです。

1か月だけ遠回りのようでもメモリースポーツをして、基礎的な記憶術運用能力がついたら、勉強に応用してください。

目安は人によりますが、ストーリー法、場所法、タグ付け法を理解して、メモリーリーグで各種目レベル6以上になっていれば良いんじゃないかなと思います。トランプ記憶はやらなくて良いです(メモリーリーグができる前の時代では最も練習のハードルが低かったのでオススメしていただけです。大会もあってモチベーションになりますし)。

まずはメモリーリーグに登録しましょう

「自分はN単語だったら、M分で覚えられるなぁ」と把握できるようになったら十分です。この把握ができないと、とんちんかんな計画を立ててしまうことになります。

メモリースポーツの始め方やコツはこのマガジンやYouTubeでたくさん説明しています。困ったらメモアカに登録して、無料部分だけでも進めてみてください。

計画力の鍛え方

計画力を鍛える方が難しいです。算数の文章題も、例題を解いて、何度も実践して解けるようになっていったと思いますが、同じように「自分が覚えたい対象を記憶術が使える形にブレイクダウンしてみる」という練習を繰り返すしかありません。

しかも算数より厄介なのが、例題がほぼ無いということ。自分が使いたい勉強分野に対して、記憶術を使って覚えている先輩たちがあまりにも少ないです。いたとしても、その人が本当に実行力があったのか、そもそも自分と同じレベルの実行力なのか、どんな記憶術が得意なのかが分からないので、同じように自分が記憶できるとは限りません。

というか、自分で頭で計画して加工していくプロセスで記憶に残っていく部分もあり、「こうやって加工したら覚えやすいよ~、ほら、この英単語帳もすでに覚えやすい語呂合わせを作ってイメージ化しておいたよ、あとは覚えるだけ!」という状態で提供されても、実際には効果が小さかったりするのです(小さいだけで、何も無いよりはよっぽど良いので、そういう貴重な資料はあったらあっただけ良いです)。

とは言え何も無い段階から自分で計画の練習をするのも難しいと思います。そこで、メモリーアスリートが「○○を覚えるとしたら、自分だったらこうやりますね」と説明しているサンプルを見て、自分でも挑戦してみるのが効果的だと思います。

メモリーアスリートがメディアに出て、普段の競技とは全然違うものを覚えてみている(覚えさせられている)場面がありますね。その時にどうやって覚えたかを説明していると思いますが、それが非常に参考になります。あるいは、そのメモリーアスリートに直接聞くというのも良いでしょう。

幸か不幸か、メモリースポーツの競技人口は非常に少ないので、すぐにトップアスリートと交流できる環境にあります。今のうちにメモリースポーツを始めれば、SNSや大会などでメモリーアスリートに「○○を覚えるのってどうやりますか?」と聞くことができます。

絵画の覚え方を聞いてもらったので答えました

そして、既にYouTubeやSNS, 各種コンテンツで覚え方を発信している選手も多いです。

宣伝にはなってしまいますが、メモアカのサイトでは「競技以外の勉強や日常で記憶術を使うとしたらこうする」という説明もあります。SDGs記憶などが特にオススメです。

また、無料でもメモアカのYouTubeで選手たちが色々な記憶に挑戦しています。

外国語の記憶や絵本記憶、徳川将軍の記憶、都道府県の花の記憶など、その思考のプロセスを聞くと参考になるかと思います。

トップアスリートはこうやって徳川将軍を覚える
都道府県の花はこうやって覚えました

こうやって良質なインプットを増やし、計画力を鍛えてください。何より大事なのは、どの対象物であってもまずは自分で挑戦してみるということです。そして、その挑戦のためには記憶術の実行力が土台として必要不可欠です。

メモリースポーツの知見を使って、実行力を身に着け、そして自分が覚えたい対象を計画しながら覚えてみる。この繰り返しで記憶術を勉強に応用していくことができます。

最後に

なぜ記憶術は役に立たないのか。

僕がメモリースポーツを始めてから7年が経ちました。この7年の間、様々な媒体でメモリースポーツの魅力を伝えてきましたが、何度も言われたのが「いや私は勉強に使いたいのであって、トランプを覚えたいわけじゃないんですよ。プロの選手になりたい人なんていないんだから、もっと手っ取り早く使える記憶術を教えてください!」という言葉です。

メディアでは話せる時間も限られているし、そもそも僕の伝える力が未熟で正しく伝えられず、いつも「勉強にも役に立つんでメモリースポーツをやってみてください」という部分が独り歩きしていました。これだけを見ると、論理が通っていないように思えるのも当然です。

実は僕も、記憶術が勉強に使えると気づいたのは、メモリースポーツを始めた後のことでした。本当は勉強のために記憶術を学ぼうと始めたのが、いつの間にかメモリースポーツの楽しさにハマっていて、「そういえば大学のテストに使えるんじゃないか?」と思って使ってみたらめちゃくちゃ使えた、というのがオチです。

最初から「このテストのために記憶術使いたいからメモリースポーツやろ」と思うと、多分挫折していたと思います。普通に勉強した方が早いし。

だから、この部分を飛ばして「騙されたと思ってメモリースポーツにハマってみてください。気付いた時には勉強に使えるんで」と言うしかなかったのも事実です。メモリースポーツのスポーツとしての面白さにフォーカスして普及活動をしていたのもこれが背景にあります。

みんながそうやってある種騙されてメモリースポーツを始めてくれれば良いのですが、何せ時間が無い現代人はそうもいきません。ハマる価値があるかどうかを知ってからハマりたいですよね。

だから、メモリースポーツをやった方が良い背景、メモリースポーツが記憶術を勉強に使いたい人にとっても最短経路である理由を書きました。スポーツとしての楽しさを抜きにして。

でも結局一番言いたいのは、メモリースポーツは楽しいということ。

どんな理由で始めても良いんです。人の数だけ正解があります。メモリースポーツを踏み台にして、勉強に使ってくれて良いんです。ただ、その中でも、誰かが面白さにハマって、メモリースポーツを続けてくれたら、これ以上のことはありません。そして一緒に、魅力を伝えていければ最高です。一緒に騙していきましょうよ。いつでもお待ちしております。